ドスパラはプリンターと逆のことをしている

世界で一番高い液体の話になると、必ず名前が出るものがある。血液でも水銀でもなく、プリンターのインクだ。ある比較では黒インクは人間の血液の処理費の約1.8倍で、英国の消費者団体の調査にはシャネルNo.5やドンペリより高い純正インクが出てくる。結婚式の乾杯でプリンターのインクを開けると、ドンペリより高くつく。

インクを買いに行って、横に並んだ本体の値段を見て黙った人もいると思う。あれには理由がある。本体を安く売って、インクで取り返しているのだ。

これは陰謀論ではない。HPのCEOはインタビューで「プリンターを売るたびに損をして、消耗品で稼いでいる」と語っている。東京地裁も2021年の判決で、日本のメーカーには本体を安くして純正カートリッジで収益を得るモデルが多かったと認定している。裁判所に認定された商売である。

ではこれはどう説明するのか。ドスパラのグラボの話だ。

同じ店の中で2万円違う

ドスパラの楽天市場店はRTX 5060 Ti 16GBのPalit製のカードを¥142,800で売っている。当サイトで確認できた単体の最安だ。

同じドスパラが、同じRTX 5060 Ti 16GBを載せたPCを送料込み¥233,280で売っている。

差は¥90,480だ。この差でついてくる部品を新品で買うと、こうなる。

ついてくる部品新品の最安
メモリ(DDR5 16GB)¥33,980
CPU(Ryzen 5 7500F)¥24,800
SSD(500GB)¥17,327
Windows 11 Home¥15,800
マザーボード¥11,734
電源(600W)¥4,990
ケース¥2,607
合計¥111,238

PCの¥233,280からこの¥111,238を引いた¥122,042が、PCに載っているグラボの分になる。単体で買う¥142,800より¥20,758安い。単体を売っている店と同じ店の話だ。ドスパラのグラボを買おうとしている客を、ドスパラが止めている。

単体の最安がドスパラのカードなのに、そのカードより実質安いドスパラのPCは30機種あった。

替刃モデルの元祖は替刃モデルをやっていなかった

本体で損して消耗品で稼ぐ商売を、英語で「替刃モデル」と呼ぶ。元祖はカミソリのジレットで、経営学の授業ではこう習う。安い柄を配って、替刃で儲けた、と。

シカゴ大学のピッカー教授が当時の資料を調べたところ、話が違っていた。特許があった1904年から1921年までのジレットのカミソリは定価5ドルで、当時としてはとりわけ高かった。値引きする店は訴えると箱に書いて脅していたくらいだ。柄を配るどころか、正反対である。安くなったのは、特許が切れそうになってからだった。

世界中の経営学の授業で教えている話の元祖が、それをやっていなかった。何か気の利いたことを言おうとしている経営者は、気をつけたほうがいい。

もっとも、プリンターの話は本物だ。だからこそインクには争いがある。エレコムは自社の互換カートリッジが動かなくなったとしてブラザーを訴え、東京地裁は2021年にブラザーの設計変更を不公正な抱き合わせと判断した。賠償額は151万3,884円だった。冒頭のシャネルより高いインクは1mLあたり約275円なので、これで買えるのは約5.5リットルである。裁判所まで行って勝ち取ったのが、2リットルのペットボトル3本に足りない量のインクだった。

ゲーム機も同じ型だ。Microsoftの幹部は米国の裁判でXboxを損して売っていると証言した。あとでゲームの売上の3割を受け取るから成り立つ。

どちらも、取り返す場所が用意してある。

同じことをしているのはハードディスクだった

取り返す場所がないのに、単体よりセットが安い。この奇妙な現象には先輩がいる。ハードディスクの「殻割り」だ。

Western Digitalの14TBの内蔵ハードディスクは、2020年に$350で売られていた。同じ会社の14TBの外付けは、過去の特売で$190まで下がった。そこで、外付けを買ってケースを割り、中のディスクを取り出す人たちが現れた。修理情報のサイトが手順を載せている。ケースは捨てる。

買った瞬間に箱を割るという、ビックリマンのシールだけ取ってチョコを捨てる小学生みたいな話である。外付けに継続課金はない。インクも替刃もない。メーカーはただ、同じディスクを2つの値段で売っていた。

ドスパラのこのPCでも同じことができる。¥233,280で買って、グラボを抜いて、残りの部品を売ればいい。保証がなくなり、手間と送料がかかり、メルカリの手数料も取られるので、たぶん割に合わない。やった人がいたら、私に教えてください。

ドスパラはどこで取り返しているのか

プリンターならインクで、Xboxならゲームで取り返す。ではドスパラのインクはどこにあるのか。

まずメモリの増設を疑った。ところが前に計算したとおり、PCの注文でメモリを増やす差額は店頭のメモリよりずっと安い。インクのほうも安い。

次に疑ったのは、単体のカードだけが楽天市場に並んでいることだ。楽天の店は売上の2〜7%のシステム利用料のほか、決済やポイントの費用を払う。¥142,800なら数千円から1万円以上になる。それでも2万円の差の全部は説明できない。

残るのは、仕入れの話だ。サードウェーブの社長はインタビューで、BTOで人気のCPUやGPUを把握して調達すると語っている。PCは売れる数がある程度読めるので、まとめて買える。一方、単体のカードは今日の相場で値札が動く。PC用に安く仕入れた在庫と、相場で売る棚のカードが、同じ会社の中に並んでいるのかもしれない。

プリンターメーカーの決算には、インクの売上という回収の場所がある。このPCにはカートリッジを差す口がない。取り返す場所がないまま、今日も送料込みで売られている。

注記

・価格:2026年11月1日に確認した送料込みの税込価格
・部品の値段:ドスパラ以外の店を含みます。
・PCのカードと楽天市場店のカード:メーカーが異なることがあります。
・インクと他の液体の比較:調査によって数字が違います。
・インクの値段:2020年の£2.04/mLを1ポンド135円で換算