実質価格で、グラフィックボードをおトクに買おう。

自作はBTOより1万〜14万円安い。RTX 5080だけは逆

IKEAの家具は自分で組み立てる。面倒なのに、組み立てた棚にはなぜか愛着がわく。これを本気で実験した人たちがいる。

2012年の論文によると、アメリカの大学で52人を集め、半分にIKEAの黒い収納箱を組み立てさせた。残りの半分には組み立て済みの同じ箱を見せた。それから箱にいくら出すかを聞くと、組み立てた人は平均78セント、見ただけの人は48セントを付けた。

次は折り紙だ。106人に鶴かカエルを折らせて入札させた結果がこちらである。

折り紙入札した人平均
素人の作品折った本人$0.23
素人の作品他人$0.05
専門家の作品他人$0.27

他人から見れば5セントの鶴に、本人だけが23セント出す。専門家の作品とほとんど変わらない値段だ。論文の題は「IKEA効果:労働が愛を生むとき」で、大学の研究費を使って分かったのは「自分の鶴はかわいい」である。

ただし、この愛には条件があった。組み立てを最後の2工程の手前で止めさせると、入札は完成させた人の$1.46に対して$0.59まで落ちる。論文の要旨によると、完成しなかったり自分で壊したりすると、愛は消える。

IKEA効果を一番浴びている人たちといえば、PCを自作する人である。なので、値打ちではなくお金のほうを計算してみた。

自作PCの時給は2万9千円

完成品のPCの値段から、同じ部品を新品の最安でそろえた金額を引く。残りが、自作すると浮くお金だ。手元のデータの中央値は¥86,958だった。

パソコン工房の組み立てイベントは、講師付き、休憩込みで3時間かけてOSのインストールまで終えている。これを借りると時給は約2万9千円になる。ドライバー1本で手に入る金額ではない。

どの店のPCをやめて自作するかで、この時給は変わる。

買わずに自作するPCの店浮くお金(中央値)3時間で割った時給
マウス¥143,587¥47,862
ドスパラ¥84,769¥28,256
FRONTIER¥56,172¥18,724
ツクモ¥10,886¥3,629
参考:最低賃金の全国平均¥1,177

同じドライバーを同じ3時間回して、店によって13倍違う。ただし時給4万8千円のこの仕事は、CPUのピンを曲げると給料が出ないどころか、部品代を請求される。

ドスパラのPCは他店の部品を持ち込むほうが5万円安い

この時給が高すぎるのかどうかは、店に聞けば分かる。ドスパラは自作PCの組み立て代行をやっていて、値段が書いてあるのだ。

組み立て、配線、起動確認、BIOSの設定、Windowsのインストールと初期設定、エラーチェックまでで¥22,000。3時間で割ると時給¥7,333である。ドスパラの中の人の時給がいくらかは知らないが、この仕事に店が付けた値段がこれだ。

ところが、ドスパラのPCと同じ部品をそろえて自作すると、さっきの表のとおり¥84,769浮く。組み立てが¥22,000なら、残りの¥62,769は何なのか。

さらに面白いのは、同じページの注意書きだ。他の店で買った部品を持ち込む場合、工賃は¥33,000になる。ちゃんと持ち込みの値段が決まっている。

すると次の計算ができる。

同じ中身の手に入れ方自作と比べて(中央値)
全部自分で組む±0
他店で部品を買い、ドスパラに持ち込んで組ませる+¥33,000
ドスパラのPCを買う+¥84,769

ドスパラのPCを買うより、よその店で部品を買ってドスパラに持ち込むほうが、中央値で¥51,769安い。ドスパラが組むことに変わりはない。持ち込むときに店員さんと目を合わせにくいだけだ。

自作の節約は一度滅びている

自作すると安い、という約束には先輩がいる。アメリカのHeathkitだ。ラジオや測定器を組み立てキットで売っていた会社で、1967年のカタログにはこう書いてある。

save up to 50% over comparable factory-built models.

工場で組んだ品より最大50%お得、という売り文句だ。同じ年の広告では、低電圧の電源がキットで$76.95、組み立て済みで$119.95だった。ハンダ付けをすると$43浮いた。

そのキット事業は1992年に終わった。元幹部の回想には、こうある。

reduced assembly costs for electronic goods eliminated savings from building a kit.

工場の組み立てが安くなって、キットで浮くお金がなくなった。人がハンダごてに飽きたのではなく、工場に時給で負けたのである。

PCの自作はまだ勝っている。ただ、負け始めている場所が一つある。

RTX 5080だけは組むほど損をする

グラボで分けると、時給がマイナスになる場所が出てくる。ツクモのRTX 5080だ。7機種の中央値で、自作のほうが¥39,563高い。3時間働いて、4万円払う。時給はマイナス¥13,188である。

理由は単体の値段で、RTX 5080の単体の最安が¥332,980まで上がっている。PCのほうはそこまで上がっていないので、PCを買えばグラボが安く付いてくる。一番差が大きいのがこれだ。

2026年11月2日時点の値段です。

同じ中身を自作すると、組み立ての手間に加えて¥53,377払うことになる。ちなみにツクモはまだ当サイトのアフィリエイトに入っていないので、ここから買われても私には1円も入りません。

お金を払って働く人たち

時給マイナス1万3千円と聞くとひどいが、世の中にはもっとすごい人たちがいる。

鹿児島の窯元の陶芸体験は、所要時間が1人15分程度で¥5,500だ。時給に直すとマイナス2万2千円で、RTX 5080より上がいる。

キーボードを自作する人たちもいる。遊舎工房の8月のワークショップは¥27,500で、スイッチとキーキャップは別売りだった。お金を払って参加して、キーのないキーボードを作る。エレコムの有線キーボードは¥2,706で、キーが付いている。

もっと気が長いのはデアゴスティーニの週刊『ロビ』だ。毎週届く部品でロボットを組み立てて、全70号。PCの3時間に対して、こちらは1年4か月かかる。2014年の発表では2号以降が1冊¥1,990だったので、掛け算すると約14万円だ。

この人たちに「完成品を買えば」と言っても無駄である。鶴の実験のとおり、本人にとっては専門家の作品と同じ値打ちがあるからだ。

私も7月にPCを自作して、1.5万円ほど損をした。だが問題ない。あのPCは今も動いている。実験によれば、愛が消えるのは完成しなかったときと、自分で壊したときだけである。

注記

・値段:2026年11月1日に確認した送料込みの税込価格で、今買えるメモリ16GB以上の機種の中央値です。カードのPCは掲載時の値段です。
・部品:グラボも含めて同じ規格の新品の最安です。別々の店で買うと送料がかかることがあります。
・保証:内容は揃えていません。
・持ち込みの計算:ドスパラへ部品を届ける費用と代行の保証は含みません。
・Heathkitの終了:他の理由もあったと元幹部が書いています。
・ワークショップ:終了済み
・キーボードの比較:仕様が異なります。
・ロビの金額:発表時の価格からの概算
・実質グラボ価格の計算:計算方法