高級車を部品で買うと12.7台分。パソコンは95%が部品のほうが安い
メルセデス・ベンツのCクラスを、ネジ1本まで部品で買いそろえるといくらになるか。
答えは完成車12.7台分だ。中国保険業協会が2014年に公表した18車種の比較で、Cクラス(W204)は完成車価格の1273.31%という数字が出た。1台組み立てる間に、完成車が駐車場を埋める計算である。いちばん低い現代エラントラでも2.7台分。2023年の100車種の平均で3.6台分ある。私にベンツを組み立てる予定はないが、知らなくてよかったとは思う。
車は、部品を集めるほど高くなる。これが工業製品の普通の感覚だ。ところがパソコンは逆なのである。
PCをバラバラにしてみた
手元にあるBTOメーカー4社のPCのデータを、グラボとほかの部品に分解して、新品の最安で買いそろえた金額と比べた。深夜にパソコンを山ほど解体している人間はだいぶ怖いが、計算上の話なので通報はしないでほしい。
完成品のほうが安かったのは、たった5.2%。残りの95%は、部品を自分で集めたほうが安い。全体の中央値で、完成品は部品より¥86,958高かった。
ベンツなら12.7台分なのに、パソコンは1台分を割る。同じ「部品を集める」なのに、なぜここまで違うのか。
ベンツのドアはベンツにしか売れない
車の補修部品には選択肢がほとんどない。Cクラスのドアが壊れたら、Cクラスのドアを買うしかない。ホームセンターで「すいませーん、ベンツのドアください」と言っても、網戸のコーナーに案内されるだけだ。売り手が強いので値段は上がる。中国の保険業界は、この競争のなさをずっと問題にしてきた。
パソコンは事情がまるで違う。ATXのマザーボードにはどのメーカーのATX電源も付くし、M.2 SSDはどれでも刺さる。1990年代から続く規格のおかげで、部品は世界中で殴り合いの安売りをしている。ケースは¥2,607、CPUクーラーは¥1,088で売られていた。サイゼ1食より安い。
完成品と部品の差の¥86,958は、組み立てと保証とサポートの代金に見えてくる。パソコンは、人類が作った中でも珍しい「バラのほうが安い工業製品」だ。
グラボだけが代えのきかない部品になった
では残りの5%は何なのか。グラボ別に見ると、はっきり偏っている。
| グラボ | 単体の最安 | 完成品が安い割合 |
|---|---|---|
| RTX 5050 8GB | ¥59,800 | 0.5% |
| RTX 5060 8GB | ¥79,800 | 3.0% |
| RX 9060 XT 16GB | ¥84,800 | 1.3% |
| RTX 5060 Ti 8GB | ¥94,800 | 3.2% |
| RTX 5060 Ti 16GB | ¥142,800 | 7.2% |
| RX 9070 XT 16GB | ¥148,800 | 2.0% |
| RTX 5070 12GB | ¥156,800 | 6.9% |
| RTX 5070 Ti 16GB | ¥239,800 | 0.9% |
| RTX 5080 16GB | ¥332,980 | 23.5% |
| RTX 5090 32GB | ¥1,149,800 | 17.8% |
RTX 5080は23.5%、RTX 5090は17.8%。5%の多くが高いグラボに集まっている。
理由はベンツのドアと同じだ。RTX 5090の代わりになる部品は市場にない。ほかの部品が規格で殴り合っている横で、ハイエンドのグラボだけは作れる会社が限られる。その値段はNVIDIAの発表価格の¥393,800から¥1,149,800まで、2.9倍になった。もはやパソコンの部品ではなく、部品の形をした自動車である。
パソコンの中で、グラボだけが車の部品のような値段の付き方をしている。だからグラボが高くなるほど、バラで買う人が損をして、完成品を買う人が得をする。普通のPCでは部品が勝ち、高いグラボのPCでは完成品が勝つ。計算してみたら、世界はそうなっていた。
注記
・PCの値段:2026年10月31日夜から11月1日未明に確認
・部品:11月1日早朝に確認した新品の最安
・対象:メモリ16GB以上の機種
・表:主なグラボだけを載せています。
・車の数字:メーカーの補修部品の価格で、組み立て工賃を含みません。
・完成品のほうが安いPC:一覧
・計算の詳細:計算方法